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東京高等裁判所 昭和39年(行ケ)2号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔編注〕一 特許庁における手続の経緯

佐竹利彦は、昭和三十四年二月三日、名称を「撰別機」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願をし、その後、原告は右佐竹から本願発明についての特許を受ける権利を譲り受け、昭和三十五年二月十五日特許庁長官にその旨の届出をし、同年十月三日出願公告されたところ、協和農機株式会社及び井関農機株式会社から特許異議の申立があつた結果、昭和三十六年八月七日、拒絶査定を受けたので、同年九月十三日これに対する抗告審判を請求し、同庁昭和三六年抗告審判第二、六五七号事件として審理されたが、昭和三十八年十一月二十七日、「本件抗告審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年十二月十四日、原告に送達された。

二 本願発明の要旨

粗雑面をなす横に傾いた撰粒盤に縦の揺動角を有する縦振動を与え該盤上の横行程に雑粒混合粒体を流動せしめながら徐々に該横行程の両側にそれぞれの異種粒を偏流せしめ、適宜の場所に誘導撰出することを特徴とする撰別機。

〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決は、本願発明と第一引用例(特公昭三三―七六五九号公報)及び第二引用例(特釈昭三一―一九、六〇一号の原明細書)記載の揺動籾撰別機とは、その構成及び作用効果において顕著に相違することを看過誤認し、本願発明をもつて、右各引用例から当業者の容易に実施しうべきものであるとした点において、判断を誤つた違法があるものというべく、取消を免れない。以下その理由を分説する。

(一) 構成について

本願発明は、(1)撰粒盤を粗雑面とした点及び(2)撰粒盤に縦の揺動角(β)を有する縦振動を与えることとした点において、前記各引用例に示されたものと、構成において相違するものといわざるをえない。

(1) 撰粒盤を粗雑面とした点について

本願発明の特許公報の「発明の詳細なる説明」の項の「……転動し易い玄米粒や砕麦粒は盤1の揺動角βと盤1の粗雑面の抵抗によつてH1に向い押進されると共に盤1がL1方向に復する瞬間その関係位置にズレを生じ盤1に対してH1の縦方向に前進し……」という記載に徴すれば、本願発明の撰粒盤における粗雑面は、撰粒盤の縦の揺動角βを有する縦揺動の上向き行程において、玄米粒又は砕麦粒は、粗雑面の流動摩擦抵抗により、撰粒盤と共に上方に移動し、撰粒盤が下向き行程に復する瞬間、それらは、その有する慣性力と粗雑面の逆方向で、かつ、下方への移動により撰粒盤のH1側へと前進するように形成され、玄米粒又は砕麦粒の横方向への流動は、主として、撰粒盤の横方向への傾斜により達成されるものであることが明らかであるから、本願発明においては、粗雑面を形成する凹凸の方向性については、特に意図するものがないものと認められるところ、第一引用例である特許公報によれば、第一引用例の揺寄せ突起(t1、t2)は、同号証の「発明の詳細なる説明」の項の「……該樋底7には、該揺動運動により(穀粒を)流動させると同時に、穀粒を片側一定方向に片寄せる作用をする揺寄せ突起t1t2を多数整列構設させてあり……」、「……突起t1t2の頂端線88'を以て右側或は左側に片寄せる作用をさせるものである」旨の記載に徴すれば、穀粒を流樋の一側壁に対し一定角度をもつて片寄せるとともに、さらに流動方向に流動させるという、該方向に一定角度傾いている方向性を有するものであり、したがつて、この突起t1t2を多数整列したものを有する第一引用例(その出願明細書である第二引用例も、この点においては同じ。)の流樋の底面は、本願発明の粗雑面とは、その構成を異にするものといわざるをえない。しかして、揺動籾撰別機試験表によれば、本願発明の一実施例の粗雑面と第一引用例、第二引用例も同じ。)の揺寄せ突起の一実施例を有する底面とは、(1)本願発明のように、揺動角が常に存在するように縦振動を与えた場合(本願発明が撰粒盤に縦の揺動角を有する縦振動を与えることを要件とすることは、後記認定のとおりである。)、(2)第一引用例及び第二引用例におけるように、垂直状態の可動支持杆をその左右側に揺動して縦振動を与えた場合(なお、被告は、第一引用例においては垂直状態の可動支持杆がその左右側に揺動することはない旨主張するが、第一引用例の流樋は可動支持杆により支持され、クランク、クランクロッドにより揺動運動する旨記載されているのみで、それ以上の特段の記載はなく、次に認定の作用効果に徴すれば垂直状態の可動支持杆が左右揺動して縦振動するものを考慮に入れているものと認めるべきであり、被告指摘の第一引用例の図面もこの認定を左右するに足りない。)の各籾混入率は、それぞれ1.17%、34.63%及び44.45%、1.22%であつたことが示されており、これによれば、右(1)、(2)の振動状態における本願発明の撰粒盤と第一引用例又は第二引用例の流樋の籾混入率との間には、その良否について全く反対の傾向を示したことが明らかであり、この事実は、両者がその構成、したがつて、これに伴う作用効果を全く異にすることを物語るものということができる。したがつて、本件審決が、第一引用例及び第二引用例の流樋の底面が本願発明の粗雑面の一種であるとしたことは、事実を誤認したものというべく、これを左右するに足る証拠はない。なお、本件審決は、「なお、凹凸を形成した撰別機の底盤の面を粗雑面と称すること、並びに傾斜させた撰別盤に被撰別物に応じていろいろと異なつた凹凸を形成することは、いずれも従来から普通に知られているところ」であるとして、実公昭三一―七、五五六号公報及び特許第二七、五九七号明細書を参照例として挙げているが、第一引用例及び第二引用例の流樋の底面をもつて本願発明の粗雑面の一種であるとしたことが誤りであること前説示のとおりであり、しかも、本願発明は第一引用例及び第二引用例とは異なり撰粒盤を粗雑面としたことにより、他の要件と相まち、第一引用例及び第二引用例のものに見られない作用効果を奏しうるものであること後に認定するとおりである以上、本件審決の指摘するような事実の存否は、いささかも結論に消長を及ぼしうべきものではないといわざるをえない。

(2) 揺動角について

本願発明は、当事者間に争いのないその発明の要旨及び「発明の詳細なる説明」の項中の本願発明の「特殊な新規な機能を発揮するには撰別盤を揺動角を以て縦に振動せしめこの盤上を横方向に流動するよう穀粒を流すことを絶対必須条件とするもの」である旨の記載に照らし明らかなように、「撰粒盤に縦の揺動角を有する縦振動を与える」という構成(なお、ここに「揺動角」とは、支枠4の先端部の軌跡内の接線と水平線とのなす角というものと認める。)をとるもの(したがつて、揺動角が〇度となる場合がある、支枠が左右に水平揺動し、縦振動する場合を含まない。)であるところ、本件審決は、本願発明の撰粒盤も、各引用例記載の流樋も、いずれも前後に振動するとともに、程度の差はあれ、上下にも振動するのであるから、本願発明において、その明細書記載のように、揺動角βを有するかどうかは設計上任意に取捨選択できる程度のことであり、両者は、この点において同一の発明に帰着する旨結論するが、この判断は、前段説示のとおり本願発明の構成についての事実誤認に基づくものといわざるをえない。このことは、前段説示のとおり、本願発明において、撰粒盤を縦の揺動角βが常に存在するように縦振動した場合と、第一引用例及び第二引用例の流樋のように、これを左右側へと水平揺動し、縦振動した場合との各籾混入率は、1.17%及び34.63%となり、また、第一引用例又は第二引用例の流樋を左右側に水平揺動し縦振動した場合と、本願発明の撰粒盤のように、縦の揺動角βが常に存在するように縦振動した場合の各籾混入率は、それぞれ1.22%及び44.45%であつたことが明らかであり、この事実によれば、籾混入率は撰粒盤及び流樋にそれぞれ規定された縦振動を与えた揚合は良好であるが、互いに他のものにおける縦振動を与えた場合は、非常に悪いことが認められる)もとより前記試験成績は、単一の条件下で行なわれた試験の成績であるが、特段の事情の認むべきもののない本件においては、他の条件下において行なつた場合にも、同様の傾向を示すものと推断することができる。)ことに徴しても、十分に首肯しうるところである。したがつて、本願発明は、撰粒盤に常に縦の揺動角βを有する縦振動を与える構成とした点において、この点の技術思想を欠く第一引用例の構成とは異なる技術的思想に立つものというべく、両者を同一発明に帰するとした本件審決の判断は、他の点について審究するまでもなく、失当といわざるをえない。

(二) 作用効果について

本願発明は、前説示のような各引用例にない構成をとつたことにより、他の構成要件と相まち、原告主張のとおりの作用効果を奏しうるものであることを認めうべく、これを覆すに足る何らの証拠資料はなく、本願発明の奏する右の作用効果は、第一引用例及び第二引用例のもののそれに比し優れたものというを相当とする。

(三) 以上詳細説示したとおり、本願発明は、その構成及び作用効果において第一引用例又は第二引用例記載のものと顕著に相違するのであるから、本願発明をもつて右各引用例から当業者の容易に実施しうる程度のものであるとすることはできないものといわざるをえない。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容する。

(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)

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